
東京・清澄白河の東京都現代美術館で開催中の「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」を訪ねました。木場公園の緑に接して立つ美術館で、大きな窓からは遮るものなく公園の芝生や木々を眺めることができます。
代表作『はらぺこあおむし』は、2026年で日本語版刊行から50周年を迎えます。幼い頃に手に取った経験がある方も多いのではないでしょうか。作者のエリック・カール氏は1929年にニューヨークで生まれ、6歳でドイツへ移住しました。ナチス政権下の厳しい規律の中で「灰色」の少年時代を過ごし、戦後、シュトゥットガルトでデザインを学びます。再びニューヨークへ戻りデザイナーとして活動した後、1967年から絵本制作の道を歩み始めました。
展示室で原画の数々と向き合うと、その鮮やかな色彩に驚かされます。あらかじめ色を塗った紙を切り貼りする「コラージュ」という技法ですが、一つひとつの作品をよく見てみると、筆跡や色ムラ、スポンジで叩いたような質感の重なりがそのまま残されています。それが生き物の肌の質感や躍動感をつくっているように感じました。あおむしの毛の一本一本に、何ともいえない愛らしさがありました。撮影可能エリアにあったお気に入りの一点です。

手書きの「ダミーブック」も数多く展示されており、ページをめくる仕掛けや音の出る仕組みなど、一冊の本を「読めるおもちゃ」として形にするための具体的な試行錯誤の跡が興味深かったです。作者ご本人による絵本の朗読の映像も素晴らしかったです。
美術館へ行く前、ある方から浅井愼平氏の詩集『THE LONG GOODBYE』(絶版)を贈呈いただきました。手に馴染む重さ、肌触りのある上質な和紙の感触に触れ、本には情報だけでない価値があると感じていたところでした。絵本も同じで、単に絵や文章を鑑賞するだけでなく、実際に指先でページを動かす中で生まれる感動があるのだと再認識しました。情報が溢れる現代だからこそ、本を手に取って五感で理解する価値を再認識する機会となりました。
この展覧会は、東京都現代美術館で2026年7月26日(日)まで開催されています。その後、2026年秋に福岡県立美術館、2027年春にあべのハルカス美術館に巡回予定です。


