練習したことを本番で発揮する。仕事でもスポーツでも、こう考える人が多いと思います。
確かに、練習が不足して身体に入っていなければ発揮のしようがありません。しかし、本番が練習通りにならないことも少なくありません。
一般的に「本番だと思って練習するように」といわれます。身を入れて行うという意味で大事ですが、練習はどこまでいっても練習、本番とは別物です。
本番だからこそ、人は本氣になります。そして、氣が動くから、真に成長する機会となるのです。
本番は練習の成果を発揮する機会というより、本番そのものが成長の機会なのです。これを正しく理解すると、「緊張を強いられる場」ではなく「成長させてくれる場」になります。
始めから本番に強い人など存在しません。何かの機会、どこかのタイミングで、本番を前向きに捉え、自ら求めるようになった人が本番に強くなるだけです。
つまり、本番に強くなる唯一の方法は、結果を恐れずに本番を積み重ねることです。
心身統一合氣道会の稽古では「審査」という本番があります。本番があることで初めて得られるものがあるのです。特に、子どもたちには驚くほどの成長を感じます。
毎年開催している全日本心身統一合氣道競技大会も同じです。大会の目的は、技の優劣を競って順位を決めることではなく、本番を通じて成長することです。
受賞は大事な結果ですが、「あの人より自分の方が上だ」という結果の比較には全く意味はなく、出場を通じて本番から得られる成長にこそ意味があります。
先日の心身統一合氣道50周年記念祝賀会では、記念講演で道の継承者としてお話ししました。
演台もなく、何も持たず、マイクだけでステージに立ちましたので、スタンドアップコメディーのような形式でした。会場の反応を見ながら、インタラクティブに内容を組み立てました。
講演後に多くの方から「事前に話の内容や順番を決めているのですか」とか、「なぜ話の途中で止まってしまうことがないのですか」といった質問を受けました。
時間もピッタリで、講演中に時計を見る素振りもなかったので、「どうやって時間を把握しているのか」を尋ねる方もいました。
資料が必要ない場合は、通常、私はマイク一本で講演をします。時計は念のために近くに設置しますが、基本的には見ていません。膨大な本番の積み重ねによって得られたもので、練習だけ積み重ねても、決して同じ結果にはなりません。
どうか誤解がありませんように。準備が不足したら本番で動けません。練習に意味がないと言っているのではありません。人は練習だけで成長するのではなく、本番でこそ成長するのです。
私も日々、本番で磨き続けています。