触れる

インド出身の方と一緒に、お店でインドのカレーを頂く機会がありました。スプーンやフォークを使わずに、手を使って食事をしていました。

インドの食文化では手を使って食べることが一般的だそうで、食材の質感や温度を手を通じて直に感じ取り、五感で味わうことによって食事がより豊かな体験に変わるようです。

ふと思い立って、私も真似して自宅でカレーとお米を手で食べてみました。最初は抵抗がありましたが、なるほど、驚くほど感覚が違います。

どうやら手で食べることには感覚を研ぎ澄ませる効果があるようです。早飯にもなりませんし、良く噛むことで唾液も十分に分泌されます。

そもそも、これから口の中に入れるものに手で直に触れてみることは、生き物として当然の行為なのでしょう。現代では、生き物として当たり前のことをする必要がなくなった結果、感覚が鈍くなっているのかもしれません。


大学の授業で心身統一合氣道を指導していると面白い現象が生じます。

二人一組になって技の稽古をしますが、学生は最初はお互いに距離を感じているのか、積極的に組を作ろうとしません。しかし、ひとたび相手に触れて稽古すると、すぐに打ち解けるのです。

触れることは、コミュニケーションや絆を深める要素です。触れることで氣が通います。また、触れることによって相手がどんな人なのかを瞬時に理解できます。

これも、本来は生き物として当然の行為なのでしょう。

日本の「看護の母」と言われる93歳の看護師である川嶋みどり先生は、看護において最も重要なことは「触れる」ことだと言われます。

触れることによって相手の状態を理解して、心も癒やすのだそうです。だからこそ触れ方がとても重要で、乱暴でがさつな触れ方では駄目で、氣の抜けた虚脱の触れ方でも駄目なのです。

つまり「氣が通う」ように触れることであり、川嶋先生が言われるには、心身統一合氣道の稽古は触れ方の習得に良いのだそうです。

実際に、川嶋先生に触れて頂くと、何とも言えない心地良さがあります。面白いことに、それは藤平光一先生の触れ方に良く似ています。


相手を自分の思い通りに動かそうとすると、それが触れ方で伝わって、相手には無意識の抵抗が生じます。これが技の稽古でいうところの相手と「ぶつかる」という現象です。

相手が動きやすくサポートしようとすると、それも触れ方で伝わって、相手には無意識の抵抗が生じません。すると、相手と一体になって、ぶつかることなく導くことができます。

心身統一合氣道の稽古では、相手に触れることで感覚を磨きます。人に触れる。物に触れる。ぜひ、「触れる」ことに心を向けてみませんか。

いつもと違う感覚が得られるはずです。

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