通常、仕事には相手が存在しているので「期限」があります。
チームワークにおいて期限は重要であり、一人でも「守らなくてもいい」という人がいると、全体の流れが停滞するだけでなく、安心して仕事を進めることができなくなります。
日本において「車道は左側通行がルール」なのと同じで、一人でも「右側通行でもいい」という人がいたら、道路は機能せず、安心して車を運転することができなくなります。
信頼関係がなければ、仕事も、社会も成立しません。
私は内弟子時代、あるとき大事な期限を守れなかったことがあります。
勿論、期限をどうでも良いと考えていたわけではなく、不測の事態が生じてしまって、どうしても間に合わなかったのです。
先方へ丁重に謝罪した上で、間に合わなかった理由も説明しました。しかし、本当のところ、私は「仕方なかった」と考えていました。
その話が耳に入ったのでしょう。藤平光一先生が私を呼びました。
「どうした。期限を守らなかったのか」
期限を守る意思はあったことを含めて、事情を説明しました。お叱りを受けることを覚悟していましたが、待っていたのは意外な言葉でした。
「そうか。お前は期限を守る氣がなかったのだね」
いま釈明したばかりで、致し方ない理由で間に合わなかっただけです。
自分が悪いのは間違いないですが、「守る氣がなかった」と言われて、腹落ちできずにいました。
藤平光一先生はさらに続けます。
「お前は期限を守るつもりでも、期限ギリギリに進めていた。だから、もし具合が悪くなって寝込んだら、期限は守れなくなる。不測の事態が生じても間に合うようにする氣がなかったのだね」
なるほど、自分なりに一生懸命やっていたつもりでしたが、確かにその氣は全くありませんでした。
「何があっても必ず守ろう」という氣が動くから本氣が伝わるわけで、それまでの私の本氣度では、本当のところの信頼は得られなそうです。
ひとまず頭では理解したので、まずは行動を改めて、不測の事態が生じても間に合うように工夫しました。
これによって助けられたことがありました。
あるとき、若手指導者の自分に指導する機会を頂けるかもしれず、先方の会社を訪問し、代表の方とお話しすることになりました。
その日は冬の寒い日で、今にも雪が降り出しそうな天候でした。
公共交通機関が乱れて万一にも約束の時間に遅れてはいけないので、1時間前に到着し、会社近くのカフェで時間調整をしていました。
約束の時間の少し前に会社に到着すると、すでに代表の方が待っておられて、ひと言。「ぜひ、先生に会社の研修をお願いいたします」と。
驚いた私は、失礼を承知で、なぜ即決されるのかお尋ねしました。
代表の方は、外出から戻る際に近隣で待機している私の姿を見たそうで、「必ず約束を守ろう」とする姿をみて信頼されたとのことでした。
そういう姿勢の人であれば、会社のことも大事に考えてくれる、と。
このとき初めて、藤平光一先生がルールの話をしていたのではなく、「必ず守ろう」とする本氣の話をしていたことが腹落ちできました。
この代表の方とは、25年経った現在でもお付き合いが続いています。
何ごとも本氣だから伝わります。本氣の一年を過ごしたいと思います。