「伝える」とは何か

 

内弟子時代に鍛えられたことの一つが「伝える」ことです。

「伝える」とは何か。

ひと言で表現すれば、伝えるとは「伝わる」ことです。

いくら自分がしっかり伝えたつもりでも、相手に伝わっていなければ、伝えたことにはならない、という原則です。

当時は週に1回、栃木にある天心館道場(520畳の大道場)で藤平光一先生の稽古がありました。稽古の前半を内弟子が担当するのです。

自分が見ている元で指導をさせて、評価するのではなく、内弟子の指導自体は藤平光一先生は全く見ません。前半が終わる頃に来られて、生徒にこのように尋ねます。

「皆さん、前半の指導は理解できましたか?」

生徒さんも大人ですから、分からないところがあっても、「良く分かりました」と答えてくださいます。すると、藤平光一先生はさらにこのように言うのです。

「それは良かった。では、私の前でやってみせてください」

「分かる」ということは「できる」ということ。実際にできるようになっていなければ、分かったとは言えません。実際に生徒さんがやってみると、できていないことが多いのです。

すると、藤平光一先生は担当した内弟子に優しくこう諭します。

「これでは、伝えたことにはならないのだよ」

私自身も繰り返し挑戦をしましたが、丁寧に伝えているつもりが、実際は伝わっていない現実を目の当たりにして、驚愕しました。

「伝わる」という基準においては、私は伝えていなかったのです。

どうしたら伝わるかをトライアル&エラーで積み重ねていくうちに、私の指導は次第に「伝わる」ようになっていきました。そして、他の指導現場でも常に同じ姿勢で臨むようになりました。

この訓練のお陰で、現在の指導者としての基礎ができました。

藤平光一先生は、仕事や日常でも同じ姿勢が重要だと説きました。

例えば、上司が部下に仕事の指示をしたとします。上司が望む結果が得られないと、たいていの上司は部下を責めます。「ちゃんと伝えてあったでしょう?」と。

望む結果が得られないということは、指示が伝わっていないということ。「伝える側に原因がある」と捉えることが大事です。「伝わらない責任を相手に求めない」という姿勢です。

「どうしたら相手が正しく理解できるか」を工夫することによって、伝え方はどんどん磨かれていきます。

もう一つ重要なことは、相手の発している「氣」をみることです。

忙しくしていて上の空の返事をしていたり、思い込みがあったり、こちらが伝えたいことを相手が正しく理解できていないときには、理解していない氣を発しているものです。

それを正しくキャッチできれば、重要な情報は繰り返し伝えたり、相手に復唱を求めたり、何らかの対応ができるはずです。

お店においても、同じ訓練ができます。

こちらが注文したものと、異なるものが出て来てくることがあります。このとき、店員さんのミスを責めてはいけません。

相手が正しく理解していないときは、何らかのサインを発していたはず。それを見逃したことが伝わらない原因なのです。

正しく伝わる結果を伝え手の責任と置くことによって、正しく伝えるための工夫が生まれ、伝え方は確実に向上していきます。

ぜひご一緒に磨いてみませんか。

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