藤平信一です。
大事な場面。
緊張感によって思うように力を発揮出来なかったという苦い経験を、誰しもが持っているのではないでしょうか。
しかし、本来は「緊張感」とは悪いものではありません。
実際のところは緊張感によって集中力を発揮することが出来ます。本番に向けて緊張感が増すということは、集中力を発揮するため、本能的に身体が臨戦態勢を整えているということです。
私自身は元々は緊張しやすい性格でしたので、大事な場面の前は、ひどい緊張感で過ごしていました。
程度の差はあれ、それは指導者になった今も変わりません。ロサンゼルス・ドジャースの指導も、NHK「あさイチ」の生出演も直前まで大変な緊張感がありました。
ところが、今から数年前、ある学会での大きな講演会でしたが、直前にも関わらず全く普段と変わらないときがありました。
「ついに落ち着きを会得したか」などと傲慢なことを考えながら壇上に上がったところ、頭が真っ白になり、何を話すか分からなくなってしまいました。
それまで一度たりともなかったことです。幸運なことに調子を取り戻して、何とか講演を無事に終えました。
振り返ってみれば、この頃はかなり「講演慣れ」してきていて、目の前の講演にしっかり心を向けていませんでした。その結果、本来不可欠な「緊張感」が全く生じなかったのです。
講演は毎回違う人が対象であり、「一期一会」であるはずなのに、そんな基本すら忘れていたことを恥ずかしく思いました。対象や規模に関係なく、今では毎回、健全な緊張感を得ています。
他方で、緊張感でガチガチになってしまう人もいます。この場合は明らかに緊張感がマイナスに働いています。その原因は「緊張感」の捉え方に問題があります。
最もいけないのは、緊張があるのに「自分は緊張していない」と、自分に対して嘘をつくことです。緊張感を無視すればするほど、どこまでも追っかけてくるものです。
緊張感も自分の一部であり、「ようこそ!」「いらっしゃい!」と、歓迎するくらいの氣持ちで受け入れることが重要です。
場合によっては、緊張感を口に出すことも大きな効果があります。これは決してマイナスな言葉を口にしているわけではなく、「今」の自分の状態を冷静にみるために必要なことなのです。
緊張感を受け入れた瞬間に、心も身体もそれに順応していきます。簡単に言えば「緊張感に馴染んでくる」のです。すると今度は緊張感が集中力として発揮され、持っている力を最大限に発揮出来る状態になります。
「順応」がキーワードであり、心を静めて現実と向かい合うとき、厳しい局面でも、人間はその環境に順応していくことが出来ます。
4月から、環境が新しくなるという方も多いことと思います。緊張感があると思いますが、ぜひ活かして頂きたいと思います。これもまた重要な稽古なのです。