会得と体得

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心身統一合氣道の昇段審査は全国で実施し、私が立ち会っています。

従来の栃木(年3回)、大阪(年2回)に加えて、今年からは仙台、長野、名古屋、広島、福岡などで実施しています。

昇段審査を受験される皆さんは、大変な緊張感で臨んでいるようで、中には、頭が真っ白になって次の動きが分からなくなる方がいます。

「どうしたら頭が真っ白になるのを防げるのでしょうか」

こういった質問を受けることがあります。切実な思いからの質問です。

どれだけ気をつけていても、頭が真っ白になるときはなるものです。「頭が真っ白にならにように」と意識するほど、状態は悪くなります。

解決方法は明解で、頭が真っ白になったとしても自在に動けるように、何度も何度も繰り返して、「身体に入れておく」ことです。

頭で考えながら動く、あるいは意識しながら動く状態は本物ではなく、頭が真っ白になると思うように動けなくなってしまいます。

身体に入れてさえおけば、無意識のうちに動くことができます。つまり、「頭に頼らず動ける状態まで練り込む」ことが重要なのです。

ざっとの目安の話です。一度、体験することを” 1 “としましょう。

「見たことがある」「聞いたことがある」という状態と比較して、一度でも体験することは大違いです。それでも、ここでは” 1 “です。

一桁多い” 10 “を行うと、「こういう感覚なのか」と会得できます。会得には感動があり、これこそ稽古の魅力と言って良いでしょう。

しかし、せっかく得られたその感覚も、すぐになくしてしまいます。ひと晩寝れば、綺麗になくなっているでしょう。

会得したことが身体に定着するには、更に一桁多い” 100 “が必要で、そこまで練り込むと体得して、なくすことはありません。

一般的に、会得した段階で「出来た」と思い込んでしまう人が多く、なかなか上達しないという人は、会得しただけで体得には至っていないことに原因があるのかもしれません。

そして、「体得したことが、いつでも、どのような環境でもできる」ようになるには、さらに一桁多い” 1,000 “が必要です。私自身、これを稽古や訓練において練り込む最小の基準としています。

「体験」→「会得」→「体得」→「できる(身につく)」の各段階で、目安として、一桁ずつ多く練り込む必要がある、ということです。

身体に入れてさえおけば、大事な場面で裏切られることはありません。頭に入れておくだけだと、実に簡単に裏切られます……。

こういった大事な話は、事ある毎に若手指導者たちにもしています。

私の元で特訓している二人の若手指導者がいます。

一人は理解が早く、そう時間がかからずに会得できていたようでした。もう一人は理解がゆっくりで、なかなか会得もできません。時間をかけて、確かな感覚が得られるまで徹底的に相手しました。

会得できた瞬間は、それぞれに感動があったようです。

その後、しばらくして同じ二人が顔を合わせた機会に確認したところ、会得の早かった指導者はすっかり元に戻ってしまって体得しておらず、会得の遅かった指導者は着実に体得していました。

話を聞けば、会得の早かった指導者は「できた!」と思ったことで、その後、練り込む機会を十分に持たなかったようでした。

会得の遅かった指導者は、それまでに時間がかかったことから、「せっかく会得できた感覚を失わないように」と、指導を受けたその日から、毎日欠かさずに反復してきたようでした。

簡単に得たものは簡単に失いやすいと言いますが、まさにそれです。昔から言われる「運・鈍・根」がいかに重要か、ということでしょう。

圧倒的な実力差ができてしまったことに直面した会得の早い指導者は、「身につけること」に対する基本姿勢が変わりました。最も大事なことに氣がついたようで、これからの成長が楽しみです。

会得するから体得できます。会得は学びにおけるスタートであって、ゴールではありません。

身につけるために、共に磨いて参りましょう。

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