朝倉彫塑館

先月、アメリカで講習会の指導をしていた時のことです。現地の指導者の方から「日本での滞在で朝倉彫塑館が心に残りました。先生は行かれたことはありますか?」と尋ねられました。私は「彫塑(ちょうそ)」という言葉も、朝倉文夫という名も知らず、海外の方から日本の芸術の巨匠について教わることになり、帰国後、さっそく行ってみることにしました。

朝倉彫塑館」は下町の風情が残る東京・谷中にあります。日本の彫刻界をリードした朝倉文夫氏のアトリエ兼住居だった場所です。木や石を削り出す「彫刻」と、粘土などで形づくる「塑造」を合わせた「彫塑」という言葉に、朝倉氏は並々ならぬこだわりを持っていたそうです。現在は外壁の工事中で見栄えが少し悪く、屋上庭園にも上がれないことが分かりましたが、これも仕方がありません。気を取り直して中へと進みました。

一歩足を踏み入れて驚いたのは、天井高が8メートル以上もある圧倒的なスケールのアトリエ空間です。そこには、今にも動き出しそうなほどリアルで、圧倒的な存在感と生命力に溢れたブロンズ像がずらりと並んでいました。大型作品の制作のために上下する床の昇降機、柔らかな自然光を取り入れる大きな窓など、朝倉氏による創意工夫が随所に凝らされています。

建物の中央に位置する「五典の池」と呼ばれる中庭も見事でした。豊かな水が大半を占めるこの中庭は、朝倉氏が心を静める場として設計しました。今回は上がれなかった屋上庭園は、昭和初期としては珍しい屋上緑化の先駆けで、かつては弟子たちの園芸実習の場だったといいます。朝倉氏は植物の世話を通して土に親しみ、五感を研ぎ澄ませることを教育方針としていたそうです。自然に学ぶ姿勢は私自身の稽古にも通じるものがあり、深く胸を打たれました。

アトリエ棟の2階にある「蘭の間」も印象的でした。もともとは朝倉氏が愛した東洋蘭の温室だったそうですが、現在は多数の猫の彫刻が展示されています。大の愛猫家だったという朝倉氏が自由気ままな猫たちの姿を生き生きと表現していて、あまりの愛らしさに思わず笑みがこぼれました。「まるで主人の帰りを待つ猫たちのよう」という作品の解説がありましたが、展示室にいると本当にそのような気配を感じるから不思議です。

朝倉彫塑館は、展示されている作品だけでなく建物や庭園のすべてが、朝倉文夫氏が生涯をかけて築き上げた一つの「巨大な作品」そのものでした。芸術家がその美的感覚と情熱のすべてを注ぎ込んだ唯一無二の空間。外壁工事が完了する頃に、ぜひ再訪したいと思います。

そんな芸術の余韻に浸りながら、朝倉彫塑館からも歩いてすぐの距離にある「スターバックス カフェ & アートギャラリー 谷中御殿坂」へ立ち寄りました。ここは今年の3月28日にオープンしたばかりの新しい店舗で、これまでのスタバとは一線を画す、地域とアートに深くコミットした体験型店舗です。この日はたまたま空いていたようで、ゆっくりと落ち着いた時間を過ごすことができました。

店内は高い天井と吹き抜けによる開放的な空間で、東京藝術大学などがあるアートの街・谷中らしく、次世代を担う若手アーティストの支援を目的としたギャラリーが融合しています。店舗の2階は壁一面の大きな窓になっており、隣接する歴史あるお寺の豊かな緑と瓦屋根を贅沢に眺めることができます。美味しいコーヒーを片手に、谷中の歴史と現代のアートが心地よく交差する空間を満喫した、素晴らしい午後となりました。

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