NHK総合「あさイチ」の番組で、新型コロナウイルスによる疲れ・イライラ・不安に対して、様々な切り口で具体的な対処法をお伝えしました。
放送が終了した後、日本全国から大きな反響がありました。
番組の最後に、「形のないシグナルをキャッチする」ことに触れました。私たちは「言われてから動く」「態度で示されてから動く」ことが多いですが、それではタイミングとして遅すぎることを説明しました。
心身統一合氣道の稽古でいえば、相手が胸突きで攻撃して来るとき、自分の身体に当たってから避けるようなもので「手遅れ」です。
相手が攻撃するとき、身体が動く前に、「攻撃しよう」と心が先に動きます。こちらの心が静まっているとき、相手の心の動きが「気配」として感じられます。形のないシグナルをキャッチできるのです。
気配を感じ取ったときに対処することによって、出遅れることなく、落ち着いて行動することができます。
レストランで注文したいとき、店員さんが気がつかないことがあります。それほど混んでいるわけでもなく、手が空いているにも関わらずです。
これは「お客様から声をかけられたら対応しよう」としているためです。「お客様から声をかけられる」という行為を、先述の胸突きに例えると、突かれてしまってから動いていることになります。
お客様が何かを頼みたいと思うときは、その瞬間、先に心が動いています。それが「気配」というシグナルとなって表れているのです。
形のないシグナルをキャッチして動く人は、お客様が必要としていることを、必要としているときに提供することができます。そういう店員さんのことを、私たちは「気が利く人」と表現するのでしょう。
形のある「言葉」や「態度」にフォーカスするのか、形のない「氣」にフォーカスするのか、それによって結果は大きく変わっていきます。
藤平光一先生はこれを戦地で会得しました。危機があるときは、形のないシグナルが予兆として表れています。
心が静まっているときは、予兆をキャッチして回避することができますが、心が乱れているときは、危機が生じてから対処することになり、戦地ではそれでは手遅れになるのだそうです。
そのため戦地でも日々、氣の呼吸法で心を静めることを実践しました。
「あさイチ」の番組でも、王貞治さんが藤平光一先生から教わった「波静まった水面」のお話をなさっていました。
風の強い日には、湖の水面には波が立ちます。すると空に月が出ていても、月はその姿を湖面に映し出さなくなります。波が無限小に静まり鏡のようになると、月は月としてその姿を表します。
心は湖面の波のようなもので、波が無限小に静まっているから、湖面に姿を正しく映し出します。このとき、相手が発している氣をシグナルとしてキャッチできるのです。
頭で理解しよう、目で見ようとすると、かえって分からなくなるものです。唯一の方法は「心を静める」ことです。
この辺りのことは、広岡達朗様・王貞治様との鼎談本『動じない。』で、それぞれのお言葉で詳しく解説されています。
シグナルをキャッチするとは、「顔色を窺う」ことではありません。間違えやすい点なので注意が必要です。
相手の顔色をみるときは、心は「どのように思われているか」にとらわれて視野は狭くなり、シグナルをキャッチできなくなります。
心の動きは「氣」によって伝わります。そして、心が静まっているときに、氣の動きを理解することができます。さらに、氣が動いたときに行動すれば、出遅れることがなくなります。
一生懸命しているのに成果がでないときは、相手の言葉や態度をみて、それから行動していることが少なくありません。常に出遅れているので、ボタンの掛け違いのようになってしまうのです。
こういうことは身体を使って、全身の感覚で習得するのが最も早いので、心身統一合氣道の技の稽古で、ぜひ磨いて頂きたいと思います。