呼吸を真似る

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10年以上は前でしょうか。

ものまねタレントの清水ミチコさんが、ある雑誌の書評ページで、藤平光一先生の著書『氣の呼吸法』を紹介していました。

それがきっかけで、清水さんのライブ映像を見ることにしました。とても楽しいライブで、いちばん印象に残ったのが、「ものまねは、呼吸なんですよ」という清水さんのひと言でした。

日頃から、稽古で私は「息を吐く」ことを突き詰めていましたので、「声を発することは、息を吐くことである」のは理解していました。

ただ、誰かの発声を真似するという観点がなかったので、それ以来、どうしたらその人の声になるか、研究を重ねて来ました。

まずは、清水さんがよく真似る瀬戸内寂聴さんや矢野顕子さんから。最初はまったく上手くいきません。どうやら「似せよう」という意識自体が邪魔しているようです。

そこで、いったん声のことを忘れて、呼吸だけみるようにしました。声ではなく、呼吸を真似するようにしたのです。

すると、あら不思議。男性と女性で音域の違いがあるはずのに、だんだん似て来るのです。なるほど、呼吸が大事なようです。

呼吸には特徴や癖のようなものがあって、抑揚がある人、力強い人、力みがある人、虚脱がある人など、実にさまざまです。

それが正確に再現されると、人は「似ている」と感じるのでしょう。

これが分かって以来、呼吸を注意深く観察するようになりました。これまで、どれほどの数の人々の真似をしてきたか分かりません。

こんな好奇心だけでして来たことが、後々、役立つことになります。

一つは「氣の呼吸法」の指導。

指導していると、自然に息を吐くことができない人が多くいます。これまで数多くの呼吸の「癖」を観察してきた経験から、「何が苦しくさせているのか」が良く分かるようになりました。

一つは「氣合いや号令」の指導。氣合いや号令にはその人の呼吸の癖が直に表れます。

通常であれば、発声は感覚的な表現で指摘されることが多いので、指摘を受ける相手はなかなか理解できません。

これまでの経験から、その癖を私が真似してみせることによって、「このようになっていますよ」とお伝えできるようになりました。

自分がしていることを外側からみると、人は癖を自覚することができます。自覚さえできれば、氣合いや号令は自ずと良くなっていくのです。

どうしたら出来るかを具体的に示せるようになりました。

「学ぶ」とは「まねぶ(真似ぶ)」と言われますが、本当にそう思います。

心身統一合氣道は、役者さんも多く学んでいらっしゃいます。

「発声」とは「呼吸」であり、心の状態は呼吸に表れていることから、感情の表現と呼吸の状態は密接な関係にあります。

それぞれの感情のときには、それぞれの呼吸の状態がありますので、その呼吸になりさえすれば、声は自然に出てきます。感情と呼吸に乖離があると、聞く者にとって違和感になるわけです。

身体のどこにも力みがなく、全身に氣が通っているとき、呼吸は自在になります。すなわち、発声も自在であるいうことであり、ゆえに、役者の皆さんも関心を持つのでしょう。

私自身も、人前でお話しをする機会が多くありますので、話す内容以上に、どのような呼吸で伝えるかを大事にしています。呼吸の状態によって、伝わり方は大きく変わるからです。

心身統一合氣道の技においても、呼吸の状態が極めて重要です。技がうまくいくときには、うまくいくような呼吸になっているからです。

上級者にとっては、呼吸を真似る(盗む)ことも、大切な稽古なのです。

私は今も、日々楽しんで研究しています。

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