我々の動作の多くは無意識が行っています。この場合の「無意識」とは「不用意」の意味ではなく、自覚していない意識を指しています。
慶應義塾大学大学院の前野隆司教授との対談(『無意識の整え方』に収録)で、脳の活動において、「意識を司る領域」よりも「無意識を司る領域」の方が、より早く反応することが科学的に示されているとお聞きしました。
このことは私にも深く実感があり、心身統一合氣道の動きにおいても、またトップアスリートの指導においても良く分かります。
調子の良い選手は、頭で命令して身体を動かしているのではなく、身体に任せて、周囲のことを感じ取った瞬間に対応しています。このとき、緊張したり、執着したり、心の状態が乱れると周囲のことを感じ取れません。
トップアスリートであれば技術が優れているのは当然であり、勝負は技術の差ではなく、良い状態を維持できるかどうかで決まります。いわゆるスランプとは「良い状態を維持出来ない」「再現出来ない」状態です。
どうしたら良い状態を持続出来るのでしょうか。
この答えが「統一体(心身統一した状態)」です。
心身は一如。心身統一とは「心」と「身体」の統一ではありません。「心身統一」とは「天地と一体になる」こと、すなわち天地と氣が交流している状態を指します。
このとき、氣が交流しているからこそ周囲のことを良く感じ取り、瞬時に対応することが出来ます。緊張したり、執着したりして氣の交流が滞ると出来なくなります。
心身統一合氣道では、氣が交流している状態を「氣が出ている」と言います。
トップアスリートにとって、大きなプレッシャーのなか、「氣が出ている」状態を保つことが課題であり、そのために、姿勢や呼吸、基本的な技を通じて統一体の訓練をします。
今春からは、新たにアメリカ大リーグのサンディエゴ・パドレスで心身統一合氣道に基づいた「氣のトレーニング」が春季キャンプに導入され、多くの選手が大事な場面で力を発揮する訓練をしています。
さて、話を無意識に戻しましょう。
無意識が働いているのは何もトップアスリートだけではありません。例えば、「立つ」「歩く」といった基本的な動作においても、無意識は重要な役割を果たしています。
同じ立つという動作でも、板の間のような固い床に立つときと、砂浜のような柔らかい地面に立つときでは、立ち方は変わっています。また、凸凹した舗装されていない道を歩くときも、その状況によって歩き方は随時変わっています。
多くの場合、我々はそれを無意識で行っていて、感じ取った瞬間には対応出来ています。我々が日常で何氣なく行っていることは、実はものすごいことで、試しに意識してやってみると、意識が邪魔をして、かえって上手く行かないことが分かります。
心身統一合氣道は「氣の原理(心が身体を動かす)」に基づき稽古します。ここでいう「心」とは自覚の出来る意識だけではなく、自覚の出来ない無意識も含まれています。氣が出ている状態は、意識も無意識も含めて心が最も自由に使えます。
技においても、頭で命令して身体を動かしているうちは本物ではありません。基本的な動きを繰り返し、意識しなくても動ける状態になって本物です。
ご一緒に統一体を磨いて参りましょう。